がん検診
ピロリ菌が胃がんの原因って本当?|関係性とリスクについて解説
この記事の監修ドクター
【略歴】
2017年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2017年 ファミリークリニックひきふね 院長就任
【資格】
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
日本内科学会認定 総合内科専門医
国立がん研究センターの情報では、日本人の胃がん罹患数は部位別で2位と高くなっています。その胃がんの原因の1つとしてピロリ菌(正式名称:ヘリコバクター・ピロリ)が最近よく挙げられます。
この記事では、ピロリ菌感染と胃がんとの関係性、リスクを紹介します。
ピロリ菌は胃がんの最大原因となりうる
胃がんはピロリ菌の慢性感染(=慢性胃炎)によって発症すると考えられています。詳しくみていきましょう。
ピロリ菌とはどんな菌?
ピロリ菌は胃粘膜にすみつく細菌です。胃粘膜は胃酸(酸性)で覆われているため、通常の菌は生息できません。しかし、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を作る力があり、尿素を分解してアンモニアを生成することができます。このアンモニア(アルカリ性)で酸性を弱め、胃の中に存在しているのです。
胃がんを引き起こすピロリ菌の脅威
ピロリ菌が胃に常在していたとしても、何らかの疾患を発症するのは保菌者の約3割程度です。しかし、そんなピロリ菌が招く胃粘膜での悪事に注意が向けられています。
実はピロリ菌はゆっくりと胃に炎症を起こし慢性胃炎となります。感染が長い時間をかけて持続してしまうと胃全体に炎症が広がります。この段階では自覚症状がほとんどありません。
そして、胃粘膜の胃液や胃酸などを分泌する組織が減少し、胃の粘膜がうすくやせて萎縮が進行した結果、胃がんを引き起こしやすい状態になってしまいます。
【ピロリ菌と胃がんの関係】
ピロリ菌感染有無による胃がん発症率の違い
ピロリ菌を持つ全員に胃がんが発生するわけではありません。しかし、ピロリ菌の感染者は胃がんのリスクが約5倍に高まることが分かっています。
実際に、萎縮の程度や年齢によっても異なりますが、10年間の経過をみた事例として、ピロリ菌感染者のうち約3%(1246人中36人)が胃がんを発症しています。いっぽう、ピロリ菌非感染者からは胃がんが1人も発症しませんでした(280人中0人)。つまり、ピロリ菌に感染していると胃がんのリスクが高くなるのです。
胃がん予防のためのピロリ菌検査
胃がんを予防するためには、発症に深く関わるピロリ菌の検査がおすすめです。大きくわけて内視鏡を使う方法と使わない方法があります。
検査方法
尿素呼気試験
検査試薬を飲み、呼気を集めて炭酸ガスを測定し、ウレアーゼ活性を測定し菌の有無を診断します。
抗体測定
血液中や尿中などに存在するピロリ菌の抗体を測定します。
便中抗原測定
糞便中のピロリ菌の抗原の有無を調べます。
内視鏡検査
内視鏡で胃粘膜を観察し、発赤や白色粘液の付着、ひだの肥厚という所見があるか調べます。
培養法
内視鏡で胃粘膜を採取し、それをピロリ菌の発育環境下で培養し、菌の有無を診断します。
ウレアーゼ試験
内視鏡で胃粘膜を採取し、ピロリ菌のもつウレアーゼ活性を測定し、菌の有無を診断します。
組織鏡検法
内視鏡で胃粘膜を採取し、組織標本に特殊な染色をして顕微鏡でピロリ菌の有無を診断します。
除菌で胃がんリスクは軽減できる
ピロリ菌に感染していることが分かった場合は、除菌することが推奨されています。
調査の結果、慢性胃炎の対象者に除菌治療をすると、萎縮が進行しないことが明らかになっています。また、除菌することで胃がんの発生率を1/3に抑制できたこともわかりました。つまり、ピロリ菌の除菌は胃がんリスク軽減に効果があるといっても過言ではないでしょう。
出典・日本ヘリコバクター学会『市民の方のためのピロリ菌解説』
除菌方法には、胃酸を抑える薬と2種類の抗菌薬を用いる除菌療法があります。この方法の除菌率は約80%~90%といわれています。ただし、アレルギー反応や下痢などの副作用も報告されているので、不安な点があれば医師に相談しましょう。
まとめ|ピロリ菌チェックで胃がんリスクを確認しよう
ピロリ菌は幼少期の衛生環境(特に上下水道環境)と密接に関連していると言われていますが、衛生面で生活環境が豊かになりピロリ菌の感染率は低下しています。結果、長期的に見ると日本から胃がんの発症は減ると予想されます。しかし気付かないうちにピロリ菌に感染していて、胃がんを発症する恐れがある人が現在も多数いることが問題です。
まずはピロリ菌感染を検査し、「胃がん予防」へとつなげていきましょう。