人間ドック

血液検査前の食事は何時間前からNG?

西宮ファミリークリニック 院長 林 泰志先生

この記事の監修ドクター

西宮ファミリークリニック 院長
林 泰志

【略歴】
1995年 和歌山県立医科大学 卒業
1995年 岸和田徳洲会病院
2001年 和帯広第一病院
2004年 東大阪徳洲会病院 院長就任
2009年 西宮ファミリークリニック 開院
【資格】
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医

血液検査の前日は「食事を早めの時間に済ませてください」と指定されることが多いかと思います。食べ終わりの時間を気にしないといけないので、「どうして食べてはいけないの?」と不思議に感じている人もいるのではないでしょうか。

血液検査前に絶食が必要な理由や、検査に必要な絶食時間についてなど、採血前の食事の疑問についてお答えします。

目次
  1. 血液検査前に絶食が必要な理由
  2. 血液検査の12時間以上前から控えるのが基本
  3. 絶食タイムに食べてしまったときは
  4. 糖尿病や妊娠中の場合は注意が必要
  5. まとめ|血液検査は絶食状態で、正確な健康状態を把握する

血液検査前に絶食が必要な理由

なぜ血液検査の前には絶食する必要があるのでしょうか。検査の準備として行う「絶食」について解説します。

食後の血糖値は上がりやすいため空腹状態で採血する

食事をすると食べた物が食道を通って胃や十二指腸で消化、分解された後、小腸で栄養として吸収されます。この時、糖分はブドウ糖として血管内に取り込まれるため、血液中の血糖値・中性脂肪の値が上昇します。

空腹の状態で採血をした場合、血糖値は「99mg/dL以下」が基準範囲内です。しかし、食後は血糖値が上がりやすいため基準以上の値が出てしまうことがあります。正確な検査結果が出ず、実際の健康状態を把握することが難しくなるため、血液検査前には食事を摂らず空腹状態で採血をすることが望ましいとされています。
※日本人間ドック学会より

絶食が必須でない場合もある

健康診断や人間ドックでの血液検査は、空腹状態で行うことが一般的です。ただし、糖尿病や高脂血症を患っている場合には、食事をした後の血糖値を調べるため「非空腹時」に採血を行います。また近年では中性脂肪の検査も、空腹時より非空腹時の方が心血管疾患を発見しやすいと提言されています。

空腹時検査なのか非空腹時検査なのか、また検査に必要な絶食の時間は、採血で何を調べたいのかによって異なります。検査を受ける際には、事前に絶食しなければいけない時間を指定されるので、正確な検査結果を判定するためにも指示に従うようにしましょう。
※糖尿病ネットワーク(欧州心臓病学会誌(Eur Heart J)に公表

血液検査の12時間以上前から控えるのが基本

血液検査前はいつから食事をしてはいけないのでしょうか。空腹の状態や検査前に食べても問題ないものについてお伝えします。

血液検査前の絶食の時間について

食事をした後の上昇した血糖値は、食べ終わってから2時間程度で空腹時と大体同じ状態へ戻ります。しかし、中性脂肪は空腹時と同じ値に戻るまでに10時間以上かかります。そのため、血液検査で「空腹時採血」と指示されている場合には、一般的に「検査前日の夕食後、12時間以上絶食した状態」が望ましいとされています。

血液検査前に飲食できるもの・できないもの

採血時は空腹状態が望ましいですが、検査までの間に水分は摂取しても良いと言われています。ただし、摂っても良いのは味のついていない水・お茶のみで、牛乳やクリームなど脂肪分が多いものや砂糖・甘味料などの糖分を含む飲料は飲めません。食事については血糖値が上がるため、口にしないようにしましょう。

飲食できるもの 脂肪分・糖分を含んでいないもの
(水・日本茶・麦茶・ブラックコーヒーなど)
飲食できないもの 脂肪分・糖分を含んでいるもの(牛乳・ジュース・清涼飲料水・加糖したコーヒーなど)

薬も抜かないといけないのか

採血では薬も検査の数値に影響を及ぼすことがあります。そのため、本来は服薬せずに検査を受けるのが望ましいです。しかし、心臓病や高血圧など薬を飲まないことで悪化する病気も多くあります。検査前にも服薬して良いかどうかについては自分で判断せず、事前に医師や医療機関へ相談しておくようにしましょう。

絶食タイムに食べてしまったときは

検査前に飲食してしまった場合は、医師や検査担当者に正直に申し出ること

検査前で絶食しなければいけないにも関わらず、「うっかり食べてしまった」というケースもあるでしょう。そんな時はどのように対処したら良いのか、飲食してしまった際の対応について解説します。

医師や検査担当者に正直に申し出ること

絶食しなければいけないのにうっかり食事をしてしまった場合は、必ず検査を行う前に医師もしくは検査担当者へ伝えましょう。食事を摂ったことを伝えず検査を行うと、血糖値や中性脂肪の値が空腹時よりも高くなる恐れがあります。正しい検査結果のためにも正直に申し出ることが大切です。

脂肪分・糖分を含まないものであれば検査に影響は出ませんが、それ以外の飲食物の場合、食べた物(なにを食べたか)とその量、食べた時間(食後どのくらい時間が経過しているか)を考慮する必要があります。場合によっては採血のみ日を改めて行うことになるかもしれませんが、食べた量や時間などを事前に伝えることで、医師が検査結果に飲食したことを加味して診断するケースもあります。

検査結果を後日病院で聞くシステムの場合は、結果説明を受ける前に「食べた物・その量・飲食後何時間経過して採血したか」を伝えられるようにしておきましょう。

糖尿病や妊娠中の場合は注意が必要

糖尿病や妊娠中の場合は絶食しない方が良い

場合によっては血液検査前に絶食しない方が良いケースもあります。治療中の病気の有無や体の状態に合わせることが重要なので、疑問や不安がある際には必ず医師や医療機関へ問い合わせるようにしましょう。

糖尿病の場合の絶食の影響

糖尿病は、血中の血糖値が高くなる病気です。そのため、血糖値を下げる薬を飲んだりインシュリン注射を常用している人が多いですが、糖尿病治療の薬を何も食べていない状態で服用すると、血糖値が下がり過ぎてしまい「低血糖」状態になる恐れがあります。

低血糖を引き起こすと気分が悪くなったり、堪え難い空腹感やひどい時には意識を失うこともあり大変危険です。絶食が必要な検査を受ける際には、通常であれば糖尿病治療の薬は服用しないよう指示されますが、服薬していなくてもその日のコンディションによっては低血糖を引き起こすケースもあるので、検査前の体調変化には注意しなければいけません。

妊娠中の場合の絶食の影響

妊娠期間中は病気や怪我がなくても、妊婦さんや赤ちゃんの健康状態を定期的に確認するため妊婦健診を受診します。そのうち、妊娠24~35週には血糖値を測る血液検査が実施されます。

妊婦さんの場合は一般的な血液検査と同じように絶食してしまうと、抜いた分の食事の栄養素を補うのが難しくなってしまいます。また、妊婦健診は妊娠中の健康状態をチェックするための検診なので、検査の時だけ結果が良くても意味がありません。
事前に医師や医療機関から絶食の指示がない限りは通常通り食事をして、ある程度時間を空けてから検査に臨むようにしましょう。ただし、朝食を食べ過ぎたり甘いものをたくさん食べてしまうと正常な検査結果が得られないので食事の内容には注意してください。

まとめ|血液検査は絶食状態で、正確な健康状態を把握する

採血のイメージ
血液検査で採血を行う際は、検査結果に影響が出ないよう前日から指定されたとおりに絶食して、正常な値が測れるようにすることが大切です。「ちょっとくらい食べても大丈夫」と自分で判断せずに、飲食しても問題ないものを選び、検査に影響が出ない時間・食べ方などを医師や医療機関へ事前に確認してください。万が一、検査前に食事をしてしまった時には必ず申し出ましょう。