がん検診
ピロリ菌はどこから感染する?疾患リスクの関連性と検査概要
胃の粘膜で悪さをするというピロリ菌、いったいどこからやってくるのでしょうか。家庭内感染の恐れや、除菌すると胃がんリスクが減る?など、みなさんが気になる点を解説していきます。
- 目次
ピロリ菌とは|特徴と感染経路について
ピロリ菌の正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」、人の胃粘膜に定着する菌です。
ピロリ菌は胃の粘膜にすみつく細菌
- 大きさ0.5 × 2.5~4.0ミクロン(μm)
- 一方端にある鞭毛を素早く回すことで胃粘膜表面を自在に動く
- 酸素濃度が低い環境で育つ
胃の中は強い酸性のため、通常の菌は生息できません。しかし、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を作る力があり、尿素を分解してアンモニアを生成することができます。このアンモニア(アルカリ性)で酸性を弱め、菌体自身を守っているのです。
日本でのピロリ菌の感染者数はおよそ6,000万人にものぼるといわれています。10~20代では10%前後と感染率は低いものの、50代以上の人では40%程度、さらに60歳以上では60%程度※と一気に跳ね上がる割合で感染していることがわかっています。
※厚生労働省資料「ヘリコバクター・ピロリ除菌の保険適用による胃がん減少効果の検証について」国立国際医療研究センター国府台病院 病院長 上村 直実氏
感染経路は水や食べ物と一緒の摂取が大半
感染経路は現在も明らかになってはいませんが、衛生環境が整備されていない時代や地域などの経口感染によると考えられています。
そして、感染するのは主に5~6歳以下の幼児です。免疫力の低い幼児期に、生水(おもに井戸水)や食べ物と一緒に摂取してしまうことが大半です。さらに幼児の場合、胃酸酸度や分泌量が低く、ピロリ菌が胃内で生き続けやすい環境であることも感染要因のひとつです。
感染者でも自覚症状がない!?
ピロリ菌が胃に常在していたとしても、常に症状があらわれる訳ではありません。何らかの病気を発症するのは感染者の約3割程度です。しかし、全世界の2人に1人がピロリ菌感染者と推定されている現在、逆にいま胃の不調がなくても感染者の可能性はあることは十分に理解しておく必要があるでしょう。
家庭内感染の可能性はあるの?
生活する中で、感染する可能性は身近に潜んでいるのでしょうか。また、感染防止のためには何ができるでしょうか。
乳幼児期の経口感染に注意
免疫機能が十分に発達しておらず、胃酸分泌の少ない乳幼児の場合は、親族から口を介して感染する場合があります。ピロリ菌はそのまま胃粘膜にすみつき慢性胃炎を引き起こす恐れがあります。そして、感染状態が長く続けば胃粘膜の感染範囲も広くなります。
乳幼児がいる家庭内で注意すべきこと
飲み水や食べ物自体にピロリ菌が含まれないように注意することが大切ですが、現代の環境では井戸水を使うことも少ないため、水に過敏になる必要はないでしょう。それよりピロリ菌に感染している大人から小さい子供への食べ物の口移しなどは感染させる危険があります。
ピロリ菌と胃がんの関連性|リスクが高まる疾患リスト
胃の粘膜にすみつくピロリ菌ですが、消化器疾患以外にも血液疾患や皮膚疾患など、様々な疾患の発症に関与していると考えられています。
リスクが高まる疾患名 | 概要 |
---|---|
胃潰瘍 | 胃壁の粘膜が深く傷ついている状態。症状は腹痛や吐き気、腹部満腹感など。 |
十二指腸潰瘍 | 十二指腸壁が深く傷ついている状態。症状は空腹時のみぞおちや背中の痛みや吐き気など。 |
胃がん | 胃の粘膜から発生するがん。症状は早期にはありません。 |
胃MALTリンパ腫 | 胃の粘膜にあるリンパ組織(MALT) から発生する、ゆっくり発育する悪性度が低い腫瘍。 |
突発性血小板減少性紫斑病 | 血小板数が減少し、出血しやすくなる、あるいは血が止まりにくくなる疾患。 |
鉄欠乏性貧血 | 血液中の鉄分が不足して起こる貧血。だるい、疲れやすいといった症状も招く。 |
慢性じんましん | 強い痒みとみみずばれが1ヶ月以上続く疾患。 |
ピロリ菌があると高確率で胃がんになる!?
ピロリ菌に感染すると胃粘膜に炎症が起こり、その状態が長く続くと萎縮性胃炎(慢性胃炎)に進行します。そして、萎縮性胃炎になると胃がんになる危険性が高まります。ピロリ菌の存在が胃がんの原因になると言っても過言ではないでしょう。
ピロリ菌がいるか調べたいなら人間ドックを活用
保菌者全員に自覚症状があるわけではありませんが、ピロリ菌に感染するとほとんどの人が萎縮性胃炎(慢性胃炎)となります。そのため、症状の有無に関係なく検査ことが大切です。ピロリ菌がいるかどうかを調べる検査として主なものを解説します。
検査方法 | 概要 |
---|---|
胃バリウム検査 | 胃粘膜の炎症でヒダが太くなったり、萎縮して消えてしまう。 |
胃カメラ検査 | 胃粘膜の炎症による発赤や萎縮の状態を確認し、胃粘膜の一部を採取し調べる。 |
血液検査(ABC検診) | ピロリ菌に対する抗体と、胃の炎症や萎縮度を調べる。 |
便中抗原検査 | 便をとり、便中のピロリ菌の有無を調べる。 |
尿中抗体検査 | 尿をとり、尿中のピロリ菌抗体の有無を調べる。 |
尿素呼気試験 | 検査薬服用前後の呼気を集めて診断。ピロリ菌の感染の場合、検査薬の含まれた二酸化炭素が呼気中に排出される。 |
人間ドックを受ける機会があればピロリ菌の有無もあわせて検査してもらえることが多いですが、まずは受診医療施設に確認をしましょう。
また、医療施設によっては、ABC検診や胃カメラなどをオプションとして設定している場合があります。人間ドックの検査項目、またはオプションとしてピロリ菌の検査項目があるか確認してください。内服中の薬によっては検査が不可能な場合があります。
まとめ|60歳以上は60%以上が保菌者!ピロリ菌が悪さをする前にチェック
ピロリ菌は慢性胃炎にはじまり、大病を発症する恐れが十分に考えられています。感染していても多くの人は自覚症状が出ないので、定期的な検査の機会を積極的につくり、疾患予防につとめることをおすすめします。