胃がんのリスクが血液検査でわかるABC検診とは?胃がん検診との違いも解説

がん検診

胃がんのリスクが血液検査でわかるABC検診とは?胃がん検診との違いも解説

栄エンゼルクリニック 水野芳樹 医師

この記事の監修ドクター

栄エンゼルクリニック 院長
水野芳樹

【略歴】
1985年 名古屋市立大学医学部 卒業
2010年 医療法人士正会 理事就任

【資格】
日本消化器病学会認定 消化器病専門医

バリウムを飲む苦労や被ばく量、検査後の便秘なども不安視される「胃部X線検査」、苦しそう・痛そうというネガティブなイメージを持たれる「内視鏡検査」など、胃がん検診と聞くと不安が拭えない方が多いかもしれません。

しかし胃がんリスクの診断には、血液検査で実施する「ABC検診」という方法もあります。胃がんの直接的な発見にはつながりませんが、胃の健康状態を確認して将来的な病気のリスクを診断することができる検査です。
ABC検診とはどのような内容か、費用、検査のメリット・デメリットと共に解説します。

目次
  1. 血液検査で胃がんのリスクがわかるって本当?
  2. 胃がんの血液検査(ABC検診)のメリット・デメリット
  3. ABC検診の流れと検査結果の見方
  4. ABC検診の費用
  5. まとめ:胃の健康状態を把握すると将来的な病気を予見できる

血液検査で胃がんのリスクがわかるって本当?

ABC検診は血液検査でピロリ菌抗体検査(HP抗体検査)とペプシノーゲン法(PG法)を組み合わせて診断します。胃がんの発生リスクを調べる検査のひとつに、「ABC検診」というものがあります。これは血液(採血して抗体を調べる)検査で「胃がんリスク検診」とも呼ばれます。胃がん発症のリスクを高めるヘリコバクターピロリ菌(以下ピロリ菌)の感染有無を調べる「ピロリ菌抗体検査(HP抗体検査)」と、胃粘膜から分泌されるペプシノーゲンという物質を調べることで胃の炎症や萎縮度合いを確認する「ペプシノーゲン法(PG法)」を組み合わせて診断します。

ABC検診の目的は将来的な胃がん発生リスクの診断

胃がんの発生は、塩分の多い食事・喫煙・多量の飲酒など生活習慣にも起因しますが、1994年に国際がん研究機関によってピロリ菌が胃がんの原因であると認定されました。
胃がんリスクを減らすためにはピロリ菌の除去が有用であり、さらに胃がんの発症リスクを判断する指標としては、ペプシノーゲン値が基準となることも認められています。

※ IARC. WHO「Helicobacter pylori Eradication as a Strategy for Preventing Gastric Cancer」
※ 国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ

胃がんの血液検査(ABC検診)のメリット・デメリット

ピロリ菌に感染していると若い世代でも将来的に発症の恐れがあるので注意が必要

胃がんの原因をつくる胃粘膜の萎縮は、老化現象のひとつと考えられますが、それだけではなく、ピロリ菌の感染が大きく関与しています。つまりピロリ菌に感染していると若い世代でも将来的に発症の恐れがあるので注意が必要です。

ABC検診 概要
目的 ピロリ菌の感染有無とペプシノーゲンの値を調べ、胃の萎縮度合いを診断。将来的な胃がんのリスクをスクリーニングする。
検査内容 採血検査
検査でわかること ピロリ菌の感染有無、胃の萎縮度合いや炎症の有無。
対象年齢 20歳以上で受診可能。
※40歳以上が推奨される。
※自治体によっては節目検診として40代以上の特定年齢を対象に検査を実施している。
費用 3,500~5,000円程度

  • 任意の医療機関で受診する場合は全額自己負担。
  • ピロリ菌を除去する場合は追加で料金がかかることが多い。
  • 自治体で検診を実施している場合は、無料もしくは低額の場合もある。(※自治体によって異なる)

ABC検診のメリット・デメリット

ABC検診はピロリ菌の感染や胃の萎縮度合いと、ペプシノーゲンにより胃がん発症リスクを調べる検査です。以下にメリット・デメリットをまとめました。

メリット
  • 採血のみで検査可能なので、体の負担と心的ストレスが少ない。
  • 年代に関係なく受診できる。(受診の推奨は40歳以上)
  • X線検査や内視鏡検査をどのくらいの間隔、頻度で受診すべきかの目安になる。
  • 全額自己負担でも比較的低額で受診できる。
デメリット
  • 胃がんリスクを判定するものであり、胃がんかどうかは確定できない。
  • 胃内部を直接観察していないので、早期胃がんの発見にはつながらない。
  • ピロリ菌に感染している、または胃の萎縮が認められたとしても、必ずしも将来的に胃がんになるとは限らない。

※ABC検診はあくまで将来的な胃がんの発症リスクを評価する方法であり、胃がんそのものを発見できるわけではありません。病変の早期発見には、胃がん検診(胃部X線検査・胃部内視鏡検査)の受診が必要となります。

ABC検診の流れと検査結果の見方

ABC検診を受診の際は、まず任意の医療機関で予約を取りましょう。検診を実施しているかだけでなく、受診のしやすさなども考慮して医療機関を選択します。予約が取れたら検査日に来院し、採血後、約2週間で結果が郵送されてくることが一般的です。検査の結果、何かしらの異常が発見された場合には、必要な治療や今後受けるべき検査を医師と相談し、方向性を決定していきましょう。

検査結果|4つの分類別に詳細を解説

検査結果はA~Dの4つに分類されます。基本的には「ピロリ抗体価検査」と「ペプシノゲン検査」を組み合わせた表で診断されます。

  ピロリ抗体価検査
陰性(ー) 陽性(+)
ペプシノーゲン検査 陰性(ー) 分類【A】 分類【B】
陽性(+) 分類【D】 分類【C】

【分類ごとの診断詳細】

ピロリ菌の有無・胃がんリスクの評価・精密検査の受診・検査の頻度など

分類 詳細
A
  • ピロリ菌の感染なし
  • 胃がんリスクは低い
  • 40歳以上の方は3-5年に1度内視鏡検査で胃の健康状態を確認
    ※気になる症状があれば随時内視鏡による精密検査を受診
B
  • ピロリ菌の感染あり
  • 念のため内視鏡検査の受診を推奨
  • 精密検査で異常なしでも2~3年に1度は内視鏡検査を推奨
  • 胃がんリスク以外にも胃潰瘍や十二指腸潰瘍にも注意
  • 将来的な胃がんリスクに備えピロリ菌除去を推奨
C
  • ピロリ菌の感染あり
  • 胃がんリスクは高い
  • 内視鏡検査での精密検査が必要
  • 精密検査で異常なしでも年に1度は内視鏡検査を受診
  • 将来的な胃がんリスクに備えピロリ菌除去を推奨
D
  • ピロリ菌が生存できないほど胃が弱っている恐れあり
  • 胃がんリスクは高い
  • 内視鏡検査での精密検査が必要
  • 精密検査で異常なしでも年に1度は内視鏡検査を受診
  • 他の検査でピロリ菌が陽性の場合は除去を推奨

ABC検診の費用

ABC検診の受診費用は大体3,500~5,000円程度です。医療機関によって料金は前後するため、事前に確認しておくと安心でしょう。ピロリ菌が発見された場合、ピロリ菌除去には別途料金が必要となります。

ただし、ピロリ菌があったとしても、必ず胃がんを発症するということではありません。医師と相談の上で除去するか、その後の治療方針を決めるようにしましょう。

健康保険や自治体の助成を受けられる場合あり

自治体によっては、節目検診として胃がんリスク検診の受診を設定している場合もあります。その場合、受診できる年齢が特定されているか、もしくは受診年齢に制限があることが一般的です。無料または安価で受診することができるでしょう。

加入している任意の健康保険でも、費用補助や助成制度を設けていることがあります。気になる方は、加入している健康保険組合へ問い合わせて確認しましょう。助成を受ける場合は受診前に申請する必要があるため、必ず問い合わせを行ってから医療機関を受診するように注意してください。

まとめ:胃の健康状態を把握すると将来的な病気を予見できる

ABC検診は、胃がんの直接的な発見にはつながりませんが、現在の胃の健康状態を確認するために有用です。採血のみで行う検査のため体への負担も少なく、胃がんリスクが本格的に高まる40代後半までの健康チェックとして、ちょうど良い検査であるといえます。

バリウムや胃内視鏡検査に不安を感じる方は、まずはABC検診でリスクチェックを行い、検査結果を受けて胃部内視鏡検査などの精密検査の受診を検討すれば、心的リスクが減少するでしょう。

胃がんリスク検診(ABC検診)の受診施設一覧