心臓ドック
心臓ドックとは|検査でわかる疾患と医療機関の選び方まで徹底解説
この記事の監修ドクター
【略歴】
1985年 千葉大学医学部 卒業
1985年 千葉大学医学部第三内科入局
1994年 米国テキサス大学ヒューストン校医学部循環器内科
1997年 帝京大学医学部附属市原病院心臓血管センター 助手
2000年 西台クリニック 副院長
2002年 千葉大学大学院循環病態医学科 助教
2008年 東京シーサイドクリニック 開設
【資格】
日本循環器学会認定 循環器専門医
心臓ドックとは、三大死因の一つである心臓病(心疾患)リスクを調べる検査コースの総称です。心疾患には様々な病気があり、中には前兆がなく、ひとたび発症すると致命的なものが少なくありません。
厚生労働省が発表した人口動態統計2020(令和3年9月公開)によると、日本における2020年の全死亡者数の15%にあたる20万5,996人が心疾患で亡くなっています。死因別にみると心疾患はがんに次いで多いという数値が出ています。
遺伝的な疾患から加齢に伴い発症するもの、動脈硬化により発症する疾患など様々ですが、近年は高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満などの生活習慣病により「動脈硬化」が進行し発症する虚血性心疾患の発症が増えています。突然死を防ぐためにご自身の心臓について知っておくことはとても重要です。
ここでは心臓ドックの目的と、調べられる疾患の種類について詳しく解説します。
心臓ドックで調べられる疾患
心臓ドックで調べる対象疾患には、(1)虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)、(2)高血圧性心疾患、(3)心筋疾患(肥大型心筋症や拡張型心筋症など)、(4)心臓弁膜症、(5)不整脈やその原因となる心電図異常(Brugada症候群など)などがあります。
通常の人間ドックでは安静時の心電図検査を調べる程度なので、これらの心疾患を見つけることは困難です。心疾患スクリーニングのためには「がん」の発見を主目的とした、通常の人間ドックとは別に心臓ドックを受ける必要があります。
それぞれの心臓疾患を順に簡単に解説します。
(1)虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)
心疾患で最も発症頻度が高いのは狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患です。これは高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満などの生活習慣病などが原因で、心臓を養う冠動脈に動脈硬化が進むことで発症します。
動脈硬化の初期は血管内皮機能異常を起こします。この異常が起きても無症状のことが多いですが、時には冠動脈の血管内皮機能異常が血管の痙攣を生じ、狭心症を発症することもあります。
さらに動脈硬化が進行すると脂質や石灰などからなるかたまりである「プラーク」が形成されます。プラークの成長に伴い血管の内腔は徐々に狭まり、労作性狭心症を生じるようになります。このころにはプラークにより冠動脈の断面は少なくとも75%以上詰まっています。運動時や階段昇降時などに胸痛を認めることで自覚されますが、50%程度の冠動脈の詰まりでは通常このような胸痛が生じません。
心筋梗塞はこのプラークが脆弱化し破裂することで、冠動脈内に血栓が形成され詰まってしまうために発症します。プラーク破裂は必ずしも高度の詰まりの部位で発生する訳ではありません。近年の研究により心筋梗塞のほとんどが、50%以下の比較的程度の低いプラークが破裂することで発症することがわかっています。そこにはプラークの脆弱性が起因していると考えられます。
したがって冠動脈の強い詰まりを見つけ治療や予防をしても、心筋梗塞の発症予防にはつながらないのです。ここが人間ドックで心筋梗塞のリスク評価をする上で最も難しく、重要な点になります。
(2)高血圧性心疾患
高血圧症を放置しておくと心臓、特に左心系に負荷を生じます。その結果、左心室の壁が厚くなる左室肥大(心臓肥大)を生じます。心臓肥大が進行すると左心室の壁運動が低下し、心不全を起こすこともあります。
また高血圧症では左心房の拡大も生じます。左心房が拡大すると心房細動などの不整脈を起こしやすくなります。心房細動では心房内に血栓形成を起こすことがあり、その血栓が心臓から流れ出て脳動脈に詰まると脳梗塞を発症しますので注意が必要です。
(3)心筋疾患(肥大型心筋症や拡張型心筋症など)
肥大型心筋症は心室壁の全体または一部が厚くなる疾患で、壁運動が悪くなることがあります。また拡張型心筋症は心室壁が薄くなり、壁運動が低下し心不全をきたします。どちらも時に致死的な不整脈を生じる場合があります。
いずれの疾患も原因は解明されていませんが、遺伝子異常が関係していることも報告されております。同一家系内で発症することはよくあり、若年で発症することも少なくありません。
(4)心臓弁膜症
心臓弁膜症は、過去にはリウマチ熱が原因となる一般的な心疾患でしたが、抗生物質の普及により最近は発症頻度が減ってきました。その一方で高齢化に伴い、動脈硬化性の弁膜症が増えています。
(5)整脈やその原因となる心電図異常(Brugada症候群)
不整脈には多くの種類があり、一過性のものから慢性のものまで様々です。治療の必要がない不整脈も少なくありませんが、突然死に至る不整脈もあります。1分以内で終わる心電図検査の最中に一過性の不整脈が捉えられることはまずありません。診断には動悸などの症状が出ている時に心電図をとる必要がありますので、検診で捉えられるチャンスは少ないのが現実です。
しかし不整脈が頻発していても全く自覚症状がない人もおり、心電図検査で偶然不整脈が捉えられることもあります。また致死的な不整脈を生じうるBrugada症候群のような特殊な心電図が検診で見つかることもあります。
心臓検査の種類
心臓ドックで実施される検査は医療機関によって異なりますが、代表的なものとして
- 心電図(安静時心電図、運動負荷心電図、ホルター心電図など)
- 超音波(心臓超音波、頚動脈超音波など)
- 冠動脈造影CT
- 心臓MRI
- 心臓PET-CT
- 血液検査
などがあります。
各検査の詳細については以下の記事にて解説しています。
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心臓ドックの料金は医療機関によって異なる
心臓ドックの料金は一律ではなく、受診する医療機関によって異なります。なぜなら、検査項目の内容によってかかる費用が異なるからです。実施される項目が多くなれば、料金も高くなります。
一例としては、冠動脈CT検査(心臓CT)・心臓超音波検査(心エコー)・頚動脈超音波検査(頚動脈エコー)・心電図などを組み合わせた検査コースがあったり、MRI/MRA、心不全の程度を測定するBNP、動脈硬化検査といった検査項目を各医療機関が設定していたりするので、コース内容を今の健康状態や年齢と照らし合わせて、必要な検査を見極めるようにしましょう。
料金の目安|1万~20万円ほど
前述の通り、医療機関によって設定している検査項目が異なるため、1万~5万円と料金に幅はありますが、この間で標準的な検査を受けることができます。また、複数の検査で詳細に心臓リスクを調べたいという場合は20万円を超えるようなケースもあります。
保険適用の有無|心臓ドックは基本的に保険適用外
心臓ドックは原則として症状がない方が心疾患の有無やリスクについて調べるものですので保険適用外になります。「胸痛を認める」「不整脈がある」などの理由で医師にかかりたい場合には保険医療機関を受診しましょう。その場合は、ドックのような総合プランとして検査を受けるのではなく、必要な検査から順に受けることになります。また検査費用には健康保険が適用され、支払い金額の1割から3割を受診者が負担します。
一方、健康診断などの病気予防の目的で心臓ドックを受診する場合は、心疾患の既往に有無にかかわらず保険適用外のため、全額が自己負担になります。
補助金について
加入している健康保険組合によっては、心臓ドック受診のための補助金制度が設けられていることがあります。補助が受けられる対象年齢、受診回数、補助金額の上限など、各条件は加入している健康保険組合によって異なるので、制度があるかどうかは加入組合に問い合わせてみてください。
受診してからでは、補助金申請ができないケースも多いので、心臓ドックの受診を検討している人は必ず、受診前に条件や申請方法を確認しておくことがポイントです。
心臓ドックを受ける際の病院選び|3つのポイント
①平日の受診が難しい場合「土日祝日でも検査ができる」
平日は会社勤めをしている人が大半である事実を踏まえると、平日に病院に行き、一定の検査時間を確保することは難しいでしょう。そのような場合は、大半の人が休日にあたると思われる土曜日や日曜日、祝日に検査を受け付けている医療機関を選ぶことをおすすめします。
とはいえ、心臓エコー検査と心電図(安静時)が中心のコースでも、受付から検査終了まで1~3時間程度の時間がかかるため、たとえ休日であっても都合がつきやすい日を選択してください。
②調べてほしい特定の部位や、心臓以外も調べてほしい場合「オプション検査がある」
特定の部位や心臓以外の部位も調べる場合は、オプション検査を追加できる、もしくは、検査コースに人間ドックや脳ドックなど、心臓ドック以外の検査が可能な医療機関を選びましょう。オプション検査を追加することで他の疾患リスクを調べることができます。
③女性で、男性の目が気になる場合「女性専用エリアがある」
医療機関によっては、女性と男性が同じ待合室で待機する場合もあります。また、受ける検査によっては下着を着用せずに検査着に着替えることもあるため、男性の目が気になる女性もいるでしょう。
そのようなときは、「女性専用フロア」を設置している受診施設を選ぶようにしてください。。女性が受診しやすい施設づくりに取り組んでいたり、男女で検査を分けていたりする医療機関も存在します。
まとめ:受診項目やコース内容を事前確認して有意義な検査を受けよう
医療機関・検査コースによって心臓ドックの料金は変動します。どのような検査が受けられるのか、その検査は受けるべき項目なのかを見極めるためには、事前にしっかりと検査内容をチェックすることが重要です。
また、料金や検査コースなど医療機関の比較検討には、医療機関の情報がまとめられているインターネットのWEBサイトが便利です。スピーディーに検査を受けるためにも、積極的に活用していきましょう