がん検診
肺がん検査の概要|リスク把握には人間ドックやがん検診を活用しよう
この記事の監修ドクター
【経歴】
1992年 京都大学医学科医学部 卒業
1992年 神戸市立中央市民病院 研修医
1994年 京都大学医学部 大学院
1999年 大阪赤十字病院
2007年 大阪府済生会中津病院
2015年 大阪府済生会中津病院 総合健診センター部長 就任
【資格】
日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医
肺がんは、死亡数が非常に高いがんです。肺もしくは気管・気管支のうち、肺の入口にあたる太い気管支(肺門部)と、気管支の抹消にあたる肺の奥のほう(肺野部)に発生します。
厚生労働省が2018年9月に発表した『人口動態統計』によると、2017年の肺がんによる死亡者数は7万4千人(男性5万3千人、女性2万1千人)。人口10万人あたり、59.5人が肺がんで死亡している計算となります。性別の死亡者数順位は、男性で1位、女性で2位といった病気です。
この記事では、肺がんリスクに対する検査・肺がん検診についてご紹介します。
罹患数は年間12万人!年齢別の傾向を探る
肺がんは死亡数だけではなく、罹患数(りかんすう/新たにがんと診断される人数)も多いがんです。国立がん研究センターの統計(2019年5月更新)によると、がんの部位別罹患数(2015年)は肺がんが3位、全年齢の罹患数は11万6千例です。
年齢別で見ると、30代の罹患数は500例以下ですが、50代になると約8千例、60代で2万9千例、70代で4万1千例と、歳を重ねていくとともに大きく増加していることがわかります。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
また、肺がんは、がん細胞の組織によっていくつかに分類されます。
具体的には、腺がん(肺腺がん)、扁平(へんぺい)上皮がん、小細胞がんなどがあります。いずれのリスクも、早期発見を目的とする検査項目は共通です。
組織分類 | 多く発生する場所 | 主な特徴 |
---|---|---|
腺がん | 肺野部 | 肺がんの中で最も多い 症状が出にくい |
扁平上皮がん | 肺門部(肺野部の発生も多くなりつつあります) | 咳や血痰などの症状が現れやすい 喫煙との関連が大きい |
小細胞がん | 肺門部、肺野部共に発生 | 増殖が速い 転移しやすい 喫煙との関連が大きい |
肺がん検診の検査項目
肺がん検診で設定されている代表的な検査項目について、ご紹介します。
胸部X線検査(レントゲン検査)
法定健診などでなじみの深い検査です。短時間で肺全体が1枚の写真に写せることが特徴です。
肺がん以外にも、肺炎、肺結核、肺がん、肺気腫、胸水、気胸など、呼吸器の疾患の有無、その程度などを調べることに用いられます。
そのため、スタンダードな人間ドックでも標準的な検査項目として含まれている場合が大半です。
ただ、初期の肺がんを1回の撮影で認識することは困難ともいわれているため、胸部X線検査で肺がんを疑われる結果(一般的にいう「肺の影」)が出た場合、胸部CT検査を精密検査として受診し、明確な診断につなげるという運用が広く実施されています。
胸部CT検査
身体にX線を照射し、輪切りにした断面像によって肺がんリスクの発見を目指す検査です。
胸部X線検査ではとらえきれない初期の肺がんの早期発見に有用です。加えて、胸部X線検査で見つかった「肺の影」の場所や形状を調べることにも用いられています。
とくに、気管支の末端にあたる肺の奥のほうに発生する肺がんの早期発見に適した検査とされています。
胸部CT検査は、胸部X線検査にくらべて肺や気管、気管支、心臓や動脈血管の状態をはっきりとらえることに役立ちます。
喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)
吐いた痰を採取し、それを染色して顕微鏡で観察する検査です。肺がんに罹患している場合、痰にがん細胞が含まれている場合がありますが、この検査では、そのがん細胞を直接観察できます。
とくに、肺の入口にあたる太い気管支(肺門部)に発生する肺がんの早期発見に適しているといわれ、肺がん検診においては、肺の奥のほう(肺野部)に発生する肺がんの早期発見に適した胸部CT検査とともに、重要な検査項目になっています。
CT機器の「列数」は撮影できる断面画像の数
肺がん検診で胸部CT検査を実施している健診施設では、CT機器に「マルチスライスCT」を用いることが主流です。
この機器は、X線検出器を複数配列にしたもので、たとえば16列のマルチスライスCT機器であれば1回転で肺の断面画像(スライスした画像)を1度で最大16枚、撮影できます。
健診施設や検査コースによって異なりますが、人間ドック情報サイトや医療機関のホームページには、16列、64列、320列などCT機器の列数が明示されています。肺の断面画像の数を示しており、列数が増えるほど断面画像の数も増え、細かい部分まで検査しやすくなります。
ブリンクマン指数とは? 喫煙と肺がんリスクの関係
肺がんの代表的なリスク要因として有名なのは喫煙です。
この喫煙と肺がんリスクの関係を医学的に示す数値を「ブリンクマン指数」といい、指数は次の数式で算出されます。
ブリンクマン指数=1日の喫煙本数×喫煙年数
たとえば、現在50歳の人が、20歳から1日あたり平均20本のたばこを吸っていた場合のブリンクマン指数は、20本×30年=600となります。
医療関係者の間では、ブリンクマン指数と肺がんについて、次の共通認識があります。
- ブリンクマン指数400以上・・・肺がんに罹患しやすい
- ブリンクマン指数600以上・・・肺がんリスクがかなり高い危険群
この共通認識があるため、ブリンクマン指数400以上の人には、いますぐの肺がん検診受診が推奨されます。
非喫煙者でも油断禁物!肺がんの危険性を高める要因「COPD」
肺がんは喫煙との関連が非常に大きいがんですが、喫煙以外の要因としては、COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)、大気汚染(PM2.5など)、肺がんの既往歴や家族歴なども危険性を高めると考えられています。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん基礎知識」
しかしこの「COPD」も、最大の原因は喫煙なのです。「慢性気管支炎」や「肺気腫」と呼ばれてきた病気の総称ですが、喫煙者の15~20%がCOPDを発症します。長期にわたる喫煙習慣を背景に、中高年に発症する生活習慣病のひとつといえます。
長期の喫煙歴があり、慢性的にせき、たん、呼吸の苦しさがある場合はCOPDが疑われます。重症化してしまう前に喫煙習慣を見直しましょう。
出典:日本呼吸器学会「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」
つまり、肺がんは、喫煙者だけではなく、誰でも罹患する可能性があるがんなのです。早期発見のためには、肺がん検診の受診が何よりも重要です。
まとめ:肺がんは早期発見が大切。胸部CT検査を受診しましょう
【肺がん検診】
■検査時間 胸部X線検査や胸部CT検査は10~20分ほど/喀痰細胞診も数分ほど
■検査結果 数週後に郵送される場合がほとんど
受診前日にはとくに食事制限などはありませんが、胸部X線検査・胸部CT検査ともにX線による被ばくがあるため、妊娠中もしくは妊娠の可能性のある人は受診できません。
肺がんは死亡数1位のがんです。誰にでも罹患の恐れがある一方で、自覚症状がない初期のうちに発見し、適切な治療に移行することで治癒の可能性が高まるがんとして知られています。
50代に入った方や、胸部CT検査の受診経験がない長期喫煙者は、一度受診することをお奨めします。