腫瘍マーカー

がん検診

腫瘍マーカーとは|PSAやCA125などがんリスクの発見に役立つ血液検査

大阪府済生会中津病院 総合健診センター 部長 田中督司先生

この記事の監修ドクター

大阪府済生会中津病院 総合健診センター 部長
田中 督司

【経歴】
1992年 京都大学医学科医学部 卒業
1992年 神戸市立中央市民病院 研修医
1994年 京都大学医学部 大学院
1999年 大阪赤十字病院
2007年 大阪府済生会中津病院
2015年 大阪府済生会中津病院 総合健診センター部長 就任
【資格】
日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医

腫瘍マーカー検査とは、がんリスクを調べる血液検査のひとつです。受診者の負担は採血だけのため、意識しなければ血液検査と区別はつかないかもしれません。

腫瘍マーカーそのものは、がん細胞がつくる特殊なたんぱく質・酵素などを意味します。たとえば、前立腺がんや卵巣がんなど特定のがんに罹患すると血液中で増加する特定の物質(PSAやCA125)があります。

この記事では、腫瘍マーカーの検査内容やわかることなど、基礎知識についてご紹介します。

目次
  1. がんの種類に応じた腫瘍マーカーがある
  2. 男性特有の前立腺がんリスクの発見には「PSA」が有用
  3. 女性特有の卵巣がんリスクの発見には「CA125」が有用
  4. 腫瘍マーカーと組み合わされる検査の例
  5. まとめ:1項目あたり数千円で各検査の精度アップにつながる

がんの種類に応じた腫瘍マーカーがある

がんには多くの種類があり、それぞれのがん細胞によってつくられる腫瘍マーカーもまた多数の種類があります。

腫瘍マーカー検査は、腫瘍マーカーの血中濃度を測定し、がんリスクの発見に役立てようという検査ですが、現時点で、がんリスクの早期判断に使えるという意味で確立された腫瘍マーカーはありません。

腫瘍マーカーはもともと、進行したがんに対して薬物療法や放射線療法や外科手術などを施した結果としてどれほど治ったかを確かめるため、つまり治療効果の判定に用いる目的で開発されたものです。

具体的にいえば、すでにがんに罹患した患者に対して外科療法・薬物療法・放射線療法を実施した場合の効果を判断することが、本来の目的なのです。

たとえば、腫瘍マーカー値が高い患者が手術によってがんを切除すると、多くの場合、腫瘍マーカー値は下降しますが、再発すれば腫瘍マーカー値がまた上昇するといった具合です。

このため、人間ドックでは受診者のがんリスク(罹患しているかどうか)を腫瘍マーカーだけで判断することは、ほとんどありません。CT検査やPET-CT検査、内視鏡検査といった他の検査といっしょに実施し、総合的に判断します。

調べるがんと腫瘍マーカー名称
調べる対象 腫瘍マーカー 正式名
前立腺がん PSA 前立腺特異抗原
子宮頸がん、子宮体がん CA125、SCC 糖鎖抗原125、扁平上皮癌関連抗原
卵巣がん CA125、SLX 糖鎖抗原125、シアリルLex-i抗原
食道がん SCC 扁平上皮癌関連抗原
甲状腺がん CEA 癌胎児性抗原
肺がん(扁平上皮がん、腺がん) SCC、CEA、SLX 扁平上皮癌関連抗原、癌胎児性抗原、シアリルLex-i抗原
胆のうがん、胆管がん CA19-9、SLX CA19-9抗原、シアリルLex-i抗原
すい臓がん CA19-9、SLX CA19-9抗原、シアリルLex-i抗原
肝臓がん AFP α-フェトプロテイン
乳がん CA15-3、CEA 糖鎖抗原15-3、癌胎児性抗原
胃がん CA15-3、CEA 糖鎖抗原15-3、癌胎児性抗原
結腸がん、直腸がん CA15-3、CEA 糖鎖抗原15-3、癌胎児性抗原

男性特有の前立腺がんリスクの発見には「PSA」が有用

前立腺がんは男性に特有のがんです。世界全体では罹患者の多いがんであり、日本でも近年は増加傾向が指摘されています。

国立がん研究センターがん情報サービスが2017年9月に発表した統計によると、前立腺がんの罹患数(全国推計値)は、胃・肺・大腸に次ぐ4位です。

そんな前立腺がんリスクを調べる腫瘍マーカー「PSA」は、陽性になる感度も高く、前立腺がんリスクの早期発見に有用といわれています。PSAは男性が注目するべき腫瘍マーカーといえるでしょう。

PSAは前立腺から日常的に分泌されているたんぱく質で、前立腺がんに罹患すると約2倍に増加します。ただし、PSAががん以外の炎症や前立腺肥大症、射精などでも増加する場合があることは知っておきましょう。

女性特有の卵巣がんリスクの発見には「CA125」が有用

卵巣がんも現在、罹患数の増加傾向が指摘されています。

卵巣がんリスクを調べる腫瘍マーカーの「CA125」も、早期発見に有用とされています。CA125は、卵巣がんで陽性になる感度が高いだけではなく、子宮頸がん・子宮体がんにも反応する腫瘍マーカーです。

そのため、「CA125」は女性特有のがんリスクに幅広く対応する腫瘍マーカーといわれています。

現状の人間ドックでは、たとえレディースドックであっても、経腟超音波検査(エコー検査)や骨盤腔MRI検査など、卵巣がんリスクを調べる画像検査の項目は、多いとはいえません。

その意味から考えても、CA125は、女性が注目するべき腫瘍マーカーです。

実際の人間ドックでは、スタンダードな検査コースの血液検査に含まれている場合もあれば、レディースドック(乳がん・子宮がん・卵巣がんの検診)の検査項目に設定されている場合もあります。

腫瘍マーカーと組み合わされる検査の例

前述したように、腫瘍マーカーだけでがんリスクを判断することはほとんどなく、ほかの検査と合わせて判断されます。具体例として次のものが挙げられます。

<CEAなど複数の腫瘍マーカー(ほぼ全身のがんリスク)+PET-CT検査>
腫瘍マーカー値に異常が見つかった場合、どこの部位に問題があるかを判断する材料となります。

<CEA/CA19-9(胃がんリスク)+上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)>
初期の胃がんを発見するために適している胃カメラを実施し、腫瘍マーカーCEAやCA19-9を用いることで判断に役立てます。

<SCC(肺がんリスク)+胸部CT検査>
初期の肺がんリスクを発見するために有用な胸部CT検査の結果を判断する際に、腫瘍マーカーSCCの値が判断材料のひとつとなります。肺がんドックの検査項目として腫瘍マーカーが設定されている場合もあります。

まとめ:1項目あたり数千円で各検査の精度アップにつながる

腫瘍マーカーは、ほかの検査と合わせて実施されることで、検査自体の判断材料のひとつとなり、検査精度を高めることに役立ちます。

人間ドックを受診する際、気になる部位や心配ながんリスクがあるなら、それに対応する腫瘍マーカーがオプションで設定されているか確認してみましょう。

一般的な費用は腫瘍マーカー1項目あたり2千円~4千円ほどです。検査は採血のみで、結果は数週間後、ほかの項目とともに届きます。

たとえ腫瘍マーカー検査の項目を追加しても、受診者の負担は採血だけです。検査時間が大幅に伸びたり、新たに重い負担が加わったりするわけではありません。

自身の希望と照らし合わせながら追加するか、健診施設・検査コースを選択する際の指標にしてみるのもよいでしょう。

なお、医療機関ごとに腫瘍マーカー検査の対応有無は異なります。お近くのエリアからまずは受診できる施設を探してみましょう。

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